わたしは急性期病院で約3年、慢性期病院の療養病棟で約3年働き、今は有料老人ホームにいます。この記事では、その3つを同じ項目で比べます。転職の経緯ではなく、実際に働いて感じた違いに絞ってまとめました。
- 3つの職場の違い
- 仕事のスピードと、医療処置の量
- 患者さん・利用者さんとの距離
- 夜勤、急変対応、判断のしかた
- それぞれで身についたこと
- 向いていると思う人
- まとめ
3つの職場の違い
先にお断りしておくと、これはわたしが働いた職場での比較です。同じ急性期病院でも、同じ有料老人ホームでも、規模や方針によって中身はかなり変わります。
「急性期とはこういうもの」という一般化ではなく、一つの実例として読んでください。
| 比較項目 | 急性期病院 | 療養病棟 | 有料老人ホーム |
|---|---|---|---|
| 仕事のスピード | 速い。次から次へ進む | ゆっくり | ゆっくり |
| 主な仕事内容 | 医療処置が中心 | 医療処置と日常のケア | 生活に近いケアと健康管理 |
| 医療処置 | 点滴、吸引、採血、血液ガス分析など | 点滴、採血など | 点滴はなし。軟膏の塗布、爪切りなど |
| 患者・利用者との関わり | ゆっくり話す時間はほとんどない | 話して関係をつくったうえでケアできる | 毎日同じ入居者さんと関わる |
| 急変対応 | 心肺蘇生など、救命する方向で動く | 事前の方針に従う | 事前の方針によっては見守る。家族と施設長への連絡が中心 |
| 夜勤 | 月8回。3人体制で40〜50床 | 月5回 | 月2回程度。1フロアを一人で担当 |
| 残業 | あるのが普通だった | 定時で帰れることが多かった | ほぼなし |
| 医師との距離 | 同じ病棟にいて、すぐ話せる | 報告しやすい | 常にいることはまれで、ほぼ会わない |
| 他職種との連携 | 多職種と直接やり取り | 他職種と直接やり取り | 介護士が中心。同じフロアで直接話せる |
| 身につきやすい能力 | 処置と急変時に動く力 | 観察力 | 気づいて、つなぐ判断 |
| 向いていると思う人 | てきぱき動き、業務を着々とこなすのが好きな人 | 患者さんと関係をつくり、小さな変化を見守りたい人 | 毎日同じ人と関わり、生活に近い視点で支えたい人 |
仕事のスピードと、医療処置の量
いちばん分かりやすく違ったのは、仕事のスピードと医療処置の量でした。
急性期は、とにかく速いです。点滴、吸引、採血、血液ガス分析、心電図。循環器病棟だったこともあり、処置が終わったらすぐ次の患者さんのところへ行く。一日がそういう積み重ねでできていました。
療養病棟に移ると、流れがゆっくりになりました。点滴や採血がなくなるわけではありませんが、量とスピードが違います。
有料老人ホームでは、医療処置がさらに減りました。わたしが働く施設では点滴はなく、日々行っているのはバイタルの確認、軟膏の塗布、爪切りなどが中心です。
処置の少なさを物足りなく感じる人はいると思います。わたしも最初は「これだけ?」と戸惑いました。ただ、処置が少ないことと仕事が楽なことはイコールではありませんでした。
一方で、急性期でしか身につきにくいものがあるのも事実だと思っています。処置の場数と急変対応です。これは離れてから、そのありがたさが分かりました。
患者さん・利用者さんとの距離
急性期にいたころ、患者さんとゆっくり話した記憶がほとんどありません。時間がなかったからです。
療養病棟では、話す時間が取れました。関係をつくったうえでケアに入れることが、わたしには合っていました。
有料老人ホームは、そもそも生活の場です。毎日同じ入居者さんと顔を合わせます。今日の様子は昨日と比べてどうか、という見方が自然に身につきます。
ただ、療養病棟に移ったとき、切り替えに時間がかかったことがありました。急性期では「良くなって退院する」が目指すところでしたが、療養病棟でのゴールはそこではありません。悪化を防ぐことが目的になります。頭では分かっていても、感覚が追いつくまでしばらくかかりました。
夜勤、急変対応、判断のしかた
ここが、3つの職場でいちばん性質が違うところだと思います。
急性期の夜勤は月8回でした。3人体制で40〜50床を見ていました。人は少ないですが、同じ夜勤の看護師がいて、当直医師にも相談できます。急変時は心肺蘇生など、救命する方向で動きます。
療養病棟の夜勤は月5回でした。処置をしている時間もありますが、巡視や眠れない患者さんへのケアも、重要な夜勤業務だったと振り返って思います。
有料老人ホームの夜勤は月2回です。1フロアを一人で担当します。1フロアは30人ほどが入居できる部屋数で、満室のときはもちろん大変です。ただし、実際の忙しさは入居している方の状態によっても変わります。
一人で1フロアを見るということは、入居者さんに何かあったとき、最初に気づいて最初に判断するのが自分だということです。別のフロアにも夜勤者がいるので相談はできますが、その場にいるのはわたし一人です。施設内に当直医師がいるわけでもありません。
そして、施設での判断は急性期の判断とは向きが違います。急性期では、急変したら救命する方向に動きます。施設では事前にご本人やご家族と方針を確認し、その内容によっては状態が変わっても積極的な対応は行わず、自然な流れを見守ることがあります。
わたしの役割は、ほかの夜勤スタッフとともに利用者さんの呼吸や脈拍の状態を確認し、ご家族への連絡や施設長への報告につなぐことが中心になります。
助けるために全力で動くことと、見守る方針のなかで見届けることでは、必要な心の持ち方が違います。どちらが重いという話ではなく、別のものだと思っています。
それぞれで身についたこと
療養病棟で身についたのは、観察力でした。
一度、歩いている方の体がいつもより傾き、少しふらついているように見えたことがあります。声をかけると「大丈夫」と言われました。でも、普段見ている歩き方とは違うと感じました。その後、容体が悪くなりました。
数値に出る前のほんの些細な違い。毎日同じ人を見ているからこそ気づけるもので、これは急性期にいたときには持っていなかった感覚です。
有料老人ホームで求められているのは、気づいたあとにどうつなぐかの判断だと思っています。医師がすぐそばにいない環境なので、今の様子を家族や医師に伝えるべきか、もう少し見てよいのか。自分で決める場面が増えました。
施設でよく求められる判断の一つが、転倒時の対応です。わたしが働く施設では、転倒リスクがあっても安易に身体拘束へ頼らずに見守っています。特に夜勤は1フロアを一人で見るため、すべてに目が届くわけではありません。
介護士さんから相談を受けることも多いです。同じフロアで同じ入居者さんを見ているので、普段の様子を直接聞けます。介護士さんが「なんとなくいつもと違う」と感じたことを看護の視点で受け止め、次にどうするかを決める。この流れは施設では日常的です。
技術に関しては、病棟を離れると落ちていくことを実感します。使わなくなったものは鈍ります。それをどう考えるかは人によりますが、わたしの場合は、落ちたぶん別のものが増えたという感覚です。
向いていると思う人
ここからは、わたしの主観です。統計的な話ではありません。
急性期は、てきぱき動ける人や、業務を着々とこなしていくのが好きな人に合うのではないかと思います。逆に、一人ひとりとじっくり関わりたい人には、時間の面でつらさが出るかもしれません。
療養病棟は、患者さんと関係をつくりながら、小さな変化をじっくり見ていきたい人に合うと思います。一方で、処置の多さや状態が大きく変わる環境にやりがいを感じる人は、物足りなさを感じるかもしれません。
有料老人ホームは、毎日同じ入居者さんと関わることが苦にならない人に向いていると思います。急性期のように入れ替わりが多くないため、関係を築いていく場が好きな人や、医療だけでなく生活に近いところから看護と介護の視点で関わりたい人にも合うと思います。
一方で、医療処置をしっかり行いたい人や、医師や看護師がすぐそばにいる環境で働きたい人には、物足りなさや不安のほうが大きいかもしれません。
まとめ
3つを比べて思うのは、どこかが楽で、どこかが大変という単純な並びにはならないということです。
急性期は速さと処置の量、療養病棟は変化の少ないなかで異変に気づくこと、有料老人ホームは医師が近くにいない環境で最初の判断をすること。負荷のかかる場所がそれぞれ違うだけでした。
職場を選ぶときに考えたいのは「楽なところはどこか」ではなく、「どの種類の負荷なら引き受けられるか」なのだと思います。処置の多さがしんどいのか、話す時間のなさがしんどいのか、一人で判断することがしんどいのか。同じ「つらい」でも、中身が違えば移るべき先も変わります。
わたしは職場を変えて、しんどさの種類が変わりました。なくなったわけではありません。それでも、自分に合う種類のしんどさなら続けられる、というのが今のところの結論です。