療養病棟へ移ることを決めたとき、いちばん不安だったのは看護技術のことでした。急性期で覚えたことを使わなくなったら、自分には何も残らないのではないか。実際に移ってみると、仕事の速さだけでなく、看護の考え方そのものが変わりました。ここでは、わたしが働いた職場で感じた5つの変化を紹介します。
- 急性期から慢性期へ移ろうと思った理由
- 変化1:仕事の流れがゆっくりになった
- 変化2:処置が減って、観察が仕事の中心になった
- 変化3:関係をつくってから、ケアに入れるようになった
- 変化4:ゴールが「良くなること」から「悪くならないこと」へ
- 変化5:夜勤と残業が減って、年収は上がった
- 慢性期へ移って、看護技術は落ちたのか
- 慢性期が合うと思う人
- まとめ
急性期から慢性期へ移ろうと思った理由
わたしは、急性期病院の循環器病棟に約3年いました。とにかく仕事の流れが速く、点滴、吸引、採血、血液ガス分析、PCI前後の看護など、次々に処置を行っていました。PCI前には尿道カテーテルを留置し、術後は12誘導心電図や穿刺部位の観察なども行います。
一つの処置が終わったら、すぐ次の患者さんのところへ行く。一日がその繰り返しでできていました。患者さんとゆっくり話した記憶は、ほとんどありません。単純に時間がなかったからです。
当時のわたしは、それを「職場が合わない」ではなく「自分ができていない」と受け取っていました。周りには勤続年数の長い中堅やベテランが多く、若手が少なかったこともあり、実力差を感じて落ち込んでいました。周りが普通にこなしていることをしんどいと感じる自分は、看護師に向いていないのだと思っていたのです。
変化1:仕事の流れがゆっくりになった
療養病棟へ移って最初に感じたのは、時間の流れ方の違いでした。
急性期のときは、次にやることが常に頭のなかに列をつくっていて、一つ終わらせるたびにその列を消していく感覚でした。療養病棟では、その列がずいぶん短くなりました。
もちろん、暇なわけではありません。やることはありますが、一つひとつに使える時間が違いました。
急性期の速さに慣れた状態で入ったため、最初のうちは逆に落ち着きませんでした。「この時間で何をすればいいのだろう」と、手が止まる瞬間もありました。
変化2:処置が減って、観察が仕事の中心になった
療養病棟でも点滴や採血はありました。処置がゼロになったわけではありません。ただ、量とスピードが急性期とはまるで違いました。
その代わりに求められたのが、観察でした。毎日同じ患者さんを見ていると、「今日は何か違う」が分かるようになってきます。
一度、歩いている患者さんの体がいつもより傾き、少しふらついているように見えたことがありました。声をかけると「大丈夫」と返ってきます。でも、普段見ている歩き方とは違うと感じました。その後、容体が悪くなりました。
検査の数値に出る前の段階で、いつもとの差に気づけるかどうか。それがそのまま仕事の質になる場所だと思いました。これは、急性期にいたときには持っていなかった感覚です。
急性期では、目の前の患者さんを毎日見続ける働き方ではありませんでした。1泊で退院する方もいたため、比べる基準が自分のなかになかったのだと思います。
変化3:関係をつくってから、ケアに入れるようになった
患者さんと話す時間が取れるようになったことは、わたしにとっていちばん大きな変化でした。
急性期では、処置をして記録を書き、次へ行く。それが悪いことだとは思いません。あの環境では、そうしないと仕事が回らないからです。
療養病棟では、まず話をして、その人がどういう人なのかを分かったうえでケアに入れました。同じケアをするにしても、そこに至るまでの過程が急性期とは異なります。
「わたしがしたかったのは、これだったのだな」と思いました。急性期にいたときに感じていた違和感の正体が、ここでようやく分かった気がします。
変化4:ゴールが「良くなること」から「悪くならないこと」へ
ここが、いちばん慣れるまでに時間がかかった部分でした。
急性期では治療が中心で、治って退院することがゴールになる場面が多くありました。良くなる方向へ向かうために、医療や看護があるという感覚です。
療養病棟では、そこがゴールではないことが多い印象でした。今の状態を保つことや、悪化を防ぐことが目的になります。
頭では分かっていました。でも、急性期の感覚のまま働いていると、何をしても手応えがないように感じる時期がありました。
「今日も昨日と変わらなかった」ということが良い結果なのだと受け取れるようになるまで、しばらくかかりました。この切り替えができないままだと、療養病棟でもどかしさを感じるかもしれません。逆に、ここが腑に落ちると、観察や関わりの意味がすべてつながってきます。
変化5:夜勤と残業が減って、年収は上がった
勤務条件の面でも変化がありました。夜勤は月8回から月5回になりました。残業は、急性期ではあるのが普通でしたが、療養病棟では定時で帰れる日のほうが多くなりました。
年収は約400万円から約500万円になりました。働く時間が減って収入が増えたため、順番が逆のように見えるかもしれません。
理由は夜勤や残業ではなく、基本給と賞与の水準が違う職場に移ったからでした。詳しい給与条件については、別の記事にまとめています。
慢性期へ移って、看護技術は落ちたのか
これは正直に書きます。落ちました。使わなくなった技術は、やはり鈍ります。
「12誘導心電図は胸部のどこに何色を貼るのだったかな」というように、記憶が曖昧になってきます。急性期にいたころのように、手が自然に動く感覚はだんだん薄れていきました。
ただ、すべてを失ったかというと、そうではありませんでした。処置の場数を踏んだ経験や、エマージェンシーコールなどの急変時に体が動くこと。これは急性期を離れてから「あのときに身についていたのだ」と実感しました。療養病棟でも、その経験が土台になっている場面はありました。
そして、落ちたぶん増えたものがあります。観察力と、患者さんとの関係のつくり方です。
技術が落ちるか落ちないかの二択で考えていたころは、「落ちることは、何も残らないこと」だと思っていました。でも実際は、持っているものの種類が入れ替わっていく感覚に近かったです。働く場所によって、中心となる技術や求められる力は変わるのだと思います。
慢性期が合うと思う人
ここからは、あくまでわたしの主観です。次のような人には、慢性期の働き方が合うのではないかと思います。
- 患者さんとじっくり関係をつくりたい人
- 小さな変化を毎日追いかけることが苦にならない人
- 処置を次々こなすよりも、生活に近いところで関わりたい人
まとめ
急性期から療養病棟へ移り、失ったものと身についたものの両方がありました。急性期で培った技術は鈍りましたが、その代わりに観察力が身につきました。速さを求められる場面が減り、継続して見続けることが求められるようになりました。
どちらが上ということではなく、求められる力の種類が違っただけだと思っています。わたしの場合は、療養病棟のほうが自分のやりたかった看護に近かった、というだけです。
急性期が合わないことと、看護師に向いていないことは同じではありませんでした。少なくとも、わたしは場所を変えたら普通に働けています。
転職先を考えるときは、楽そうかどうかだけでなく、自分がどのような看護をしたいのかも含めて考えるのがよいと思います。給与などの待遇はもちろん大切ですが、業務内容によって疲弊しすぎない働き方も大切です。